5125人が本棚に入れています
本棚に追加
この最悪な状況を打破できる名案が上がらないまま、時は過ぎていく。
「畜生……
一体どうすれば……」
いつまでも、紫電蜘が待ってくれる筈もなく。
遂に、紫電蜘は動きを見せた。
「ギギギギ!!!!」
腹を震わせ、かと思えば、辺り一面に体毛が舞っていた。
紫電蜘が放った毛だ。
体格の割に細いその体毛。
その舞い散る毛と毛の間を、閃光が走っていた。
電気だ。
パチパチと音を鳴らし、稲妻の様に放電している。
そしてその毛が、俺にも降りかかる。
「――!!
マスター!!
逃げて下さい!!」
リコが叫んだが、それは至難の技だぞ。
俺は憔悴仕切っている上に、左足を負傷している。
もちろん、だからといって諦める事はしたくない。
できる限り、俺は足掻いた。
地面を不様に這いずり、情けなくその場から逃げ様とした。
あれだけ訓練してきた、匍匐前進(ほふくぜんしん)の見せどころだ。
が。
そんなもので逃げられる筈もなく。
突然、俺の体にバチンッと電撃が走った。
「ぐぅ……!!」
体が本格的に動かない。
痺れている。
これが紫電蜘の狩猟方法か。
見事なものだ。
なんて、感心している暇じゃねぇ!!
マジでヤバい!!
紫電蜘が俺に近付いてくる。
そして。
グサッという何か生物を突き刺した音が聞こえた。
と共に、俺は右手に激痛を感じた。
「ぐぁあぁあああ!!!!」
見ると、紫電蜘の足の鉤爪が俺の右手を刺している。
おぇ……。
あまり見たく無かったぜ。
「ぐぅ……!!
ハァ……ハァ……」
くっそ……。
普通に考えれば、ただの人間がこんな怪物に勝てる訳ないんだ。
人間は弱い。
極めて脆弱だ。
生身だと、こうも適わないものなのか……。
「マスターー!!!!
しっかりして下さい!!
このっ!!
マスターを離せ!!」
リコが必死に、紫電蜘に体当たりを繰り返している。
たかが携帯端末機が何度も、ぶつかったところで与えられるダメージは皆無だ。
そんな事はリコも分かっている筈だが。
分かっていても、止める訳にはいかないらしい。
本当に、よくできたプログラムだよ。
さて……。
俺だって、こんなところで蜘蛛の餌になるのはゴメン被る。
術後の代償が甚大だから、なるべくは使いたくなかったが……。
いよいよ、やむを得ない。
俺は紫電蜘の足を左手で掴む。
そして、言った。
「"闇術"『吸精』」
最初のコメントを投稿しよう!