第1章

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「どうかした?」 リューマが眉をひそめて私たちの様子を伺っていた。 「なんでもないです! さっ、リューマさんの髪早速カットしましょう!」 私は笑顔を張り付けて、リューマを促した。 「不自然な話し方だな」 ヨシが私の口調に違和感を感じたようで 苦笑いしている。 「ミユキさんとオレ、仲良かったんでしょ? 遠慮しないで気軽に話そう」 リューマはニッコリ笑って、私の肩に手を置いた。 いきなり肩に感じたリューマの温もりに ドクンと心臓が跳ね上がる。 そして肩もいっしょに反応してビクッと動いた。 「あ、あの……。ミユキでいいから、私も、リューマって呼ぶね!」 ぎこちなくそう言って笑ってみせる。 「ああ。そっちの方がいいね。気を使わない方がいい」 リューマはニッコリそう言って然り気無く私の肩を抱いた。 「オレの部屋に行こう。 やっと……髪をカットしてもらえる。 アダムに短くしろって煩く言われてたんだけど、どのスタイリストにも触らせたくなくて…… オレにはお気に入りのスタイリストがいたんだって それだけは何となく覚えてたんだよ。 ミユキさんの写真を見て、この人だって感覚で思い出したんだ」 そう言いながら、足を前に進めて行く。 「ここのホテル、フロントが分かりにくいからオレに着いてきて」 ヨシの方にも振り返りながらそう言った。 「オレ……邪魔なら、この辺で時間潰してるけど」 ヨシは リューマが私の肩を抱いているのを見て 疎外感でも感じたのか、私のバッグとカットクロスや道具の入ったカバンを差し出した。 「アシスタントとか言って、ただ荷物運びの役目だけだから。 ……ミユキ……うまくやれよ。」 ヨシは言葉に力を込めて、私とリューマの関係の修復を応援してくれているようだった。 「うん」 私はしっかり頷いて、シザーケースが入った自分のバッグとカットクロス等の道具が入ったカバンを受け取った。 それを横からリューマがひょいっと両方を取り上げる。 「オレ持つよ」 優しい眼を向けられて、私の胸はキュンと鳴った。 「……ありがとう」
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