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リューマは私の肩から手を離して、荷物を自分の肩にかけた。
久しぶりに感じたリューマの温もりを失い、寂しく感じる私の肩。
「ミユキ……オレたちは知り合ってどのくらい……?」
リューマは足を前に進めながら訊いた。
「3年くらいかな……。私、リューマの専属スタイリストになりたくて美容師になったの。そして夢を叶えて……」
「それで、ずっとオレの髪をカットしてくてた?」
「ええ……」
「相当オレ、ミユキの事、気に入ってたんだね。他のヤツに触れさせたくないくらい」
「そうだったなら……嬉しい」
記憶を失っても、感覚で覚えてくれていたなんて
なんてゆう奇跡なんだろう……。
今までの色んな想いがこみ上げてきて
それが涙になって溢れてきそうになった。
私が……リューマの妻だって
どうしたら思い出して貰えるんだろう……。
私が今、あなたの妻です!って主張しても
きっと不審に思われるだけ…。
記憶って、意外と感覚で覚えている事の方が確かなものに感じるのかな。
私とリューマの間に残る確かな感覚……。
「ミユキ、結婚してるんだね。
今、指輪に気づいたけど。
もしかして、アシスタントって言ってた……ヨシが旦那?」
リューマは混乱しているような表情を見せて私の薬指の指輪に視線を落とした。
その瞳は指輪の存在を否定したいかの様に哀しげだった。
「ち、違うよ……ヨシは職場の同僚……で」
口ごもらせて言う私をジッとリューマは見つめている。
「ま、オレには関係ないよね。ミユキの旦那が誰でも」
投げやりな口調でそう言って私から視線を外したリューマに
私の胸は凍りつく感覚を覚えた。
リューマは本当にすっかり忘れてしまってる。
その事実を再び思い知らされて、
とてつもない絶望感が襲ってきた。
フロントのような場所でリューマはカードキーを受け取り、また私たちはエレベーターに乗りこむ。
二人きりの空間。
切ない気持ちが沸き上がる。
『オレには関係ないよね。ミユキの旦那が誰でも』
残酷に言い放ったリューマの言葉が胸を突き刺して、
今度は哀しくて涙が出てきそうになるのを
グッと耐えた。
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