第1章

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エレベーターが止まり、扉が開いて出ようとした時、リューマがチラリと私を見て、一瞬にして顔を曇らせた。 「どうして……泣いてるの?」 あ……。 私、耐えきれず泣いてしまってる。 どうしよう。 変に思われる…… 言い訳を頭で思い巡らせても何も思い浮かばない。 私は涙を拭って、一生懸命笑って見せた。 「えっと、色々思い出して、感傷的になってしまったみたい」 「感傷的……。オレってそんな風に思われるような存在だった?」 「そうじゃなくって……忘れられるって、こんなに哀しいものなんだなって……」 そう言いながら顔が少し歪んでしまうのを止められなかった。 チン……とエレベーターの扉が閉まりそうになったのをリューマは私を見つめながら、“開“を押し、「どうぞ」と、私を先に出るように促した。 リューマの宿泊する部屋まで来て、緊張しながら中に入る。 入ると広々としたリビングみたいな空間と奥には大きめのベッドが配置されているのが見えて、張り巡らされてる窓ガラスからは展望台にいるような景色が広がっていた。 さっき見たラウンジみたいに、外の景色を眺めるために設計したような部屋の作り。 さぞかし、夜の夜景は綺麗なんだろうな。 ホテルというより、広々としたリビングの様な空間は高級住宅マンションのようだった。 「座って。コーヒーか何か飲む?」 リューマはフカフカそうなソファに 座る様に私を促した。 「あ、いえ、大丈夫です」 「冷蔵庫一通り飲み物入ってるから遠慮なくどうぞ」 「はい……」 「オレ、ちょっと色々確認する事があって……ちょっと待ってて」 リューマも向かいのソファに腰を下ろして、ノートパソコンを膝の上に置いて開いた。 そして、それに視線を落としたリューマの表情は、次第に険しく、冷たいものになっていった。 「…………」 「…………」 しばらく流れる沈黙の中、私は 久しぶりに見るリューマの姿をジッと見つめていた。 パソコンに視線を落とすリューマの瞳は、私の知ってるリューマじゃなかった。 なんだろう……この違和感。 リューマ、半年の間に何が起きていたんだろう。 そして今、パソコンで何をしてるんだろう。 どうしてそんなに冷たい瞳をしているんだろう。 私の知らないリューマがいる。 遠い世界に行ってしまったリューマがいる。 手を伸ばせば届く所にいるのに……。
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