第1章

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リューマは険しくさせた顔をフッと緩ませて、不気味に笑った。 「フフ……あはは」 口元を歪めて笑いを止められないように肩を揺らしている。 リューマの綺麗で整った顔が不気味な笑みで歪んでいた。 こわい……。 こんなリューマ、知らない。 私は自分の眼に映ってる人が誰なのか分からなくなって、 見るに耐えかねて思わず眼を反らした。 半年でこんなに人って変わってしまうの? こんな冷たい眼をしてしまうものなの? さっきまでは穏やかで優しい瞳のリューマだったのに、今は氷の様な冷ややかな瞳をしていて、 不気味に笑うリューマが二重人格者のように見えてしまった。 そんなリューマを見て背筋がゾッとしてしまった自分自身にも驚く。 リューマ……一体どうしちゃったの……? 底知れぬ怖さが私を不安に陥れていく。 「どうしたの……?」 肩を揺らして笑うリューマに、声を震わせて訊いた。 「あ、ゴメン。驚かせた? 何でもない。それよりミユキ、こっち来て。」 リューマは長い前髪を揺らしながら、人差し指をクイッと曲げて隣に来るように促した。 何か私に見せたいようだった。 訝しげにリューマの隣に移動して腰を落ち着かせる。 リューマから漂う香水は、以前と変わっていて、違和感を感じる事ばかり。 「今度、オレの役が正式に決まったんだけど、それがテロリストと組むサムライの血筋を持ったヤクザだって。 この監督、日本にどうゆうイメージを持ってるんだか……短絡的でウケない?」 さっきの冷たい雰囲気が消えて役ふりの通達が来たらしいイメージ画面を私に見せながらケタケタ笑った。 リューマが…… また日本を離れてしまう…… ハリウッド俳優として…… 私との生活を忘れて…… 私と私達の赤ちゃんも忘れて…… 私の望まない道をリューマは進んで行こうとしている。 「それでさ。役的に、髪は長い方がいいみたい。」 「…………」 「だから、ボサボサになってるのを切り揃えてもらう程度でいいや、今回は」 そう言って私の方を向いたリューマは言葉を失っていた。 「また……泣いてる……ミユキ……?」
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