第1章

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来客者の顔を確認するモニターには 乱れた髪を整えるように片手を頭にやり 手グシを通しながら もう片手で、カメラに向かって手を振っているヨシが映っていた。 本当に急いで飛んで来たんだ。 「…………」 今さらだけど、こんな遅くに夫以外の男性を家に入れるなんて非常識だよね……。 でも…… きっと私が電話口でウジウジしてるから、 ヨシも心配してくれたんだろうし…… でも、下心もあるって言ってたし…… あの発言を聞いてしまったら すんなりオートロックの鍵を解除出来ないでいた。 ピンポーン、ピンポーン! 今度は急かすように立て続けに鳴らされた。 そして手に持っていたスマホも鳴り出した。 見ればヨシからだった。 「もしもし」 『いるんだろ?開けてよ。』 「…………」 『心配すんな。約束しただろ。ミユキが離婚するまでは手出さないって』 「また、前みたいに不意討ちにキス……しないでね」 『…………』 電話口からヨシの深い溜め息をつくのが聞こえた。 「しないよ……」 ヨシのその言葉を聞いて 胸を撫で下ろし 私はオートロックを解除した。 そして再び玄関先からのインターフォンが鳴り 私は玄関の扉を開けた。 ヨシが私の顔を見て少し安堵の色を表情に浮かべると ヨシの腕が伸びてきて 私の肩を引き寄せて胸に抱きしめた。 「よ、ヨシ……?」 戸惑いながらヨシの胸を両手で押すと、 ヨシは それを許さないとでもいうように 一層腕に力を込めて 私の抵抗を阻止して強く抱きしめてきた。 「抱きしめるなとは言われてない。」 ヨシは、私の耳元に唇を寄せた。 そして微かに唇が耳たぶに触れたかと思うと 唇を耳たぶの下に押し付けた。 少し荒く感じるヨシの吐息。 「や……やめて。ヨシ」 いつもないヨシの強引さに、私は戸惑ってそれから逃れようとした。
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