第1章

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そして当日……。 大興奮して昨夜はほとんど眠れなかった。 私は出掛ける支度を済ませ、 ドレッサーに映る自分の顔を眺めた。 久し振りにメイクしたせいか、 化粧のりが悪い。 それとも妊婦になると肌が荒れるのかな……。 来ている洋服は、お腹を圧迫しないマタニティーパンツにドルマンシャツでお腹の膨らみを隠した。 そろそろ6ヶ月目に入るお腹は、少し膨らんできているけど、痩せてしまったせいか、まだ妊婦とは分からないほど。 ヨシと待ち合わせの駅に、私は自分のシザーケースだけを鞄に入れて身軽な格好で向かった。 秋を感じさせる少しひんやりとした澄んだ空気に、心地いい日差し。 こんなに足取りを軽く感じたのは凄く久し振りだった。 リューマに会えるという高揚感が昨日からずっと続いていて 心が幸福感で満たされている。 お腹の赤ちゃんもきっと喜んでる。 パパに会えるよー! まだ……胎動は感じないけど 確かにいる私とリューマの赤ちゃん。 パパに会えたら、赤ちゃんも喜んで動いてくれるかな。 「ミユキ」 駅に着いて、改札の前まで来たらヨシが既にそこで待っていた。 ヨシの周りを行き交う女子は必ずヨシに視線を向けるほど ヨシの外見は目立っていた。 イケメン美容師そのものに、ファッションだって抜かりない。 仕事をしばらく離れていて、マタニティー服に身を包む私は、いたって普通のアラサー女子だ。 「よし行くか」 ヨシが私のカバンを取り上げて、改札の方に足を向けた。 私が少しヨロめくと、 ヨシは過敏に反応して手を差し伸べてくる。 そんな様子を見てると ヨシに対して感謝の気持ちがヒシヒシと込み上げてきた。 ヨシがいたから私は、壊れてしまわずに済んだんだ。 狡いけど リューマの代わりの温もりが私にはどうしても必要だったんだ。 私、こんなに弱い人間じゃなかったのに……。
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