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今も仕事中だった。仕事なのだ。仕事だと思っているのだが、もう途中から訳が分からなくなっている。どこからどこまでが仕事なのだろうか。どこで俺の仕事は終わるのだろうか。
めずらしく荷物の配送を頼まれた。普通に宅配業者に頼めばいいものを、と思っていたが、なにやら訳ありらしく、報酬も多いからと引き受けたらしかった。
「中身は?」
「わかんない」「え?」
「教えてくれなかった」
「やばいんじゃないですかそれ」
「確認したよ。さすがに犯罪には加担できませんよ?法には触れてませんよね?って」
窓をあけて煙草の煙を逃がしながら遠くを眺めてそういうのは、この何でも屋のリーダーの長谷川だった。
「それで?」
「大丈夫だって」
「…え?」「ん?」
何もなかったかのように、長谷川がこちらを見る。
「それだけですか」
「依頼者がそういうんだから大丈夫だろう」
「いやいや。いくら払ってもらえるのか知りませんけど絶対やばいじゃないですか。それにこれなんですか」
運んでくれ、と頼まれたのは、真っ白な四角い箱だった。振ってみても中に何か入っているような音はなく、電子機械のようにも思えたがボタンも何もない。
「わかんないって言ってるだろ」
「なんで確かめないんですか。依頼人の人の住所は?電話番号は?偽名使われてるんじゃないんですか。お金だって本当に払ってくれるのかわかりませんよ」
「金はある」
「えっ、先払いですか」
「お前には言えないが、先にあれだけ払ってもらえた以上断れないだろ」
「えー、いや、でも。それになんで俺なんですか」
「よく晴れてたから」
「は?」
「めずらしく今日はみんなほかの仕事で出払っているし、暇そうにしているのはお前だけだったからな」
「長谷川さんだって」
「俺は他にやらないといけない事があって、事務所に残っていないといけない。それにお前がそれを運んでいる時に、俺が事務所にいないと何かあったら困るだろ」
「何か起こるかもしれなさそうな仕事引き受けないでくださいよ」
「お前なら大丈夫。今日はよく晴れてるし。お前にぴったりの日だろ。せ・い・て・ん君」
俺の名前は武藤青天(むとうせいてん)。
絶対名前負けしている。
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