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そして今白い箱は手元にある。
そしてなぜか俺は今、それを手にして走り続けている。そもそもなんだ。なんで俺はこの仕事を断れなかった。とことんダメだ。ダメ男だ。勢いでなんでも流されてしまう。流されてしまうから俺はこんなことになっている。この仕事はおかしい。というかこれは仕事なのか。終わりはどこだ。終わりを教えてくれよ。
振り返れば、黒いスーツを着た男たちがすぐそこまで追いかけてきていた。どこかで見たテレビ番組と似ていたが、サングラスはしていたりしていなかったりまちまちだ。
そもそもなんで俺は走っているのかを考える。
追われているからだ。なぜ追われている?
「非常に大切な箱であるため、奪う人間が現れるかもしれない。決して、運んでいる最中にとられないでください」
長谷川が依頼人から聞いて書いた汚いメモを読んでいる。
「絶対に箱は誰にも渡さないでください。手にした人がずっと持ち続けてください。どんなことがあっても…ってなんですかこれ」
「よくわからんが、そういうこった」
「そういうこったって。なんなんですかこの箱」
「だからわかんないって」「いや完全に怪しいでしょ。なんですか奪おうとする人が現れるかもって。どんな箱なんですかこれ」
「わかんないが、とにかく大事なものだそうだ」
「大事なもの?いくら大事でも人に追われるほど大事なものってあります?とにかく俺は嫌です。やめときます」
「断れないぞ」
「なんでですか。…これでクビになるんだったら、俺、それでもいいです」
「お前、持っただろ」
「……へ?」
「最初に持ち上げて抱えたやつが、運ぶことになっているんだそうだ。ほかのやつはもう触っちゃいけない」
「な…、なんですかそれ」
「俺にもよくわからん。ただ依頼人が言うには、最初にそれを抱えた人間がその箱を運ばないとダメなんだそうだ」
「べ、別にそんなの従わなくたって」
「従わないと大変なことになるらしい」
「え?」
「わからないんだが、とにかく大変なことになるらしいんだ」
「俺もよくわからないんですけど」
「まぁ、やれるだけやってみてくれよ。こんなおいしい依頼はそうそうないぞ」
じゃあ自分が行けばいいのに。
なんて言えないのが俺の性で、結局それでわかったのは、とにかく俺が、この白い箱を運ばないといけないということだけだった。
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