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箱は丸裸の状態で、両手で抱えたままで運ばなければならなかった。どうしてなのかについては、やっぱり教えてくれなかった。
どこまでもあの黒スーツが追ってくる。
角を勢いよく曲がって、すぐそこに見えた細い路地裏に入り込む。大きなゴミ箱があったので、その裏に箱を横に置いて身を潜めた。つかまったらどうなるのかもわからない。この依頼が達成できなかったら、俺がこの箱をあの黒スーツの人らに盗られたならどうなってしまうのかもわからない。ただよくわからないという恐怖で動かされているだけだった。
足音が怖くて、耳を塞いで身をできる限り縮める。心臓の鼓動が大きく聞こえた。陽は頭上より少し傾いてはいたがまだまだ暑く、汗が額と背中を伝うのがわかる。やがてドタドタと複数の大きな足音が去ったのを聞いて、やっとまともに息ができた。
横に置いてある箱をみる。
仮に俺がこの仕事を失敗しても別にいいのではないか。何でも屋の信頼は多少失うのかもしれないがそんなのどうだっていい。俺が辞めてしまえば関係ないのだ。もし箱が盗まれたなら、依頼人に話して警察にお願いすればいい。そうだ、警察にお願いすればいいのに。
って、何にもこんな詳しいこと教えられないから俺らみたいな何でも屋に依頼したのか。ってなんだよ、この詳しいこと教えられませんっていう仕事は。なんだこれは。なんだよ。
何度考えても納得いかない。箱を持って外に出て歩いていたと思ったら、いきなりこんな追われることになっているし。大の大人が大勢で追ってきているあの光景があんなに怖いとは思わなかった。テレビで見たことはあったが、やっぱり現実に自分が体験すると全然違う。最初は自分を追っているのかどうかわからなかったが、走ってくるやつらが見えた途端、全員が自分を見ているようで、思わず理由を聞けぬまま気づいたらこうして走り出していたのだ。
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