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いきなり後ろから抱きとめられて体がふわりと浮いたかと思うと、視界の隅に淡い茶色の髪が映った。
「み、湊さん?!」
その髪の持ち主の名前を呼ぶと、甘い香りと一緒に王子様みたいなきらきらした笑顔が返ってくる。
連絡もできてないのになんでここが分かったの?!
というより、湊さん今日はおうちに帰るって言ってなかったっけ?!
混乱して視線がぐらぐら動く僕を抱き上げたままの湊さんは、青い顔をする木塚君を見下ろしてにっこり笑った。
「貸出時間終了。一応話が終わるまで待っててあげたんだから感謝してね?」
「待っ、え?!い、今来たんじゃないのか……?」
「10分くらい前に来たよ。あ、それより前に上坂に酷いことしてないよね?」
「そ、それは……。」
「『してない』って即答できないってことはなにかしたんだ?」
あ、まずい
湊さんの笑顔が怖い……
なにか湊さんの気をそらさないと
「み、湊さん、なんでここが分かったんですか?僕連絡できなかったのに……。」
すると湊さん苦笑いしながら僕を下ろしてくれた。
そして髪の毛をかきあげながら言う。
「学園内の人目につかないところをしらみつぶしに探していったんだよ。といっても木塚君は転入生で学園のことに詳しくないだろうし、行くとすれば用具入れ系が準備室系だろうと予測を立てて。走り回って疲れちゃった。」
「ご、ごめんなさい。」
「えー、上坂が謝ることじゃないよ?それよりなにかされなかった?大丈夫?」
「だ、大丈夫です。」
「本当に?」
「はい。」
「分かった。上坂がそう言うならいいよ。」
眉尻を下げて優しく笑った湊さんは僕の頭を撫でると、「外で待ってて」と言って僕の背中を押した。
締め出される形で体育倉庫を出た僕はどうしたものかと静かな体育館をうろうろしてみる。
あ、湊さんに「木塚君に意地悪しちゃだめです」って言うの忘れちゃった。
大丈夫かな……。
湊さん怒ると迫力あるしな……木塚君怖い思いするんじゃないかな……。
「あ!!真幸いた!!おいメガネ、真幸いた!」
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