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あれ、でも
今のって、僕のことを助けてくれたってことだよね……?
お礼、言わないと……。
「あ、あの、木塚君……?」
「……うるせえ黙ってろ。」
「ご、ごめんなさい……。あの、でも、ありがとうって……言いたかっただけで……。」
もごもごと言うと、木塚君はますます不機嫌そうになった。
い、言わなきゃよかったのかな……。
木塚君からしたら反射的に体が動いただけなのかもしれないけれど、助けてもらったことにはかわりないし、せめてお礼くらいはと思ったんだけど……。
どう考えても場の空気が「これ以上余計なことを言わない方がいい」ものだったので、僕は仕方なく口をつぐむ。
木塚君がなにを思って僕をここにつれてきたのかは分からないけど、どうやらいきなり殴ったりする気はないらしいということは分かった。
だけどそうなるとますます分からないなぁ。
なんで木塚君は僕のことをここにつれてきたんだろう……。
お互い喋らないままの時間がかなり長く続き、腕時計が時間を刻む音だけが重なっていった。
もう学校に残っていた生徒もほぼ家路についたであろう時刻になってしまい、僕はいつまでここでこうしていなければいけないのか不安になってくる。
こっそり木塚君の様子をうかがってみるも、木塚君はパイプいすに浅く座って、足を前に投げ出し、相変わらず難しい顔をしていた。
……もう帰りたい…………。
そう思ってついため息をついたとき、木塚君がぼそりと言った。
「お前、お人よしだな。」
「へ?」
急に振られた話題が思いもしなかったことだったので、僕は首を傾げてしまった。
すると木塚君はそっぽを向いたまま言葉を続ける。
「中学時代にひどいことされたやつによくお礼なんて言えるな。」
「え……だ、だって……た、助けてもらったから……。」
「ばかじゃねえの。」
「ご、ごめんなさい……。」
「…………ムカつかないのか?」
「え?」
「俺に。」
ムカつく……?
そんなこと、考えてみたこともなかった……。
怖いとは思うけど、ムカつくことはない。
というか、なんでそんなこと聞くんだろう……。
「え、えっと…………。」
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