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関心があるのかないのか分からない相槌を打ってから、木塚君は僕にスマホを差し出してきた。
「え……か、返してくれるの?」
答えは返ってこなかったけれど、木塚君は僕にスマホを握らせる。
「あ、ありがとう……。」
「……お前がいつも人に囲まれてるから……。」
「え?」
「二人きりで話しできるチャンスが全然なくて。……友達、いっぱいできたんだな。」
「あ……え、えっと……うん。」
木塚君はぐっと拳を握ってから、勢いよく頭を下げた。
「え?!き、木塚君?!」
「いまさら遅いかもしんねえし、こんなの俺の自己満足だって分かってる。だけど…………
ごめん。」
へ……?
まさかの謝罪の言葉に、僕は手に持っていたスマホを落してしまう。
木塚君はそろっと顔を上げてから、さらに言葉を続けた。
「いまさら何言っても言い訳にしかなんねえけど……お前のこといじめてたグループの中で、俺もいつもいじられてて……。お前へのいじめに加わらないとハブられると思って……それが怖くて……それで。…………これ……。」
木塚君はそう言ってシャツの袖をまくった。
すると肘の内側に刃物で「ヘタレ」と文字が刻まれた痕が残っていた。
まるで僕の傷跡と同じようなその痕に僕が言葉を失っていると、木塚君は言う。
「お前の前に俺がこれやられてて。…………言い訳にもならないけど。」
「き、木塚君がいじめられてたなんて全然知らなかった……。」
「……隠してたから。」
「そ、そっか……。」
「中学卒業して正直お前のことなんて忘れてたんだ。……お前のこといじめてたおかげで俺はグループにハブられることもなく、それなりに楽しく中学生活を過ごせたし。
……だけど今年の春にたまたま駅でお前のこと見て……あの人、如月先輩と一緒にいるところを。そんでお前がすごく楽しそうに笑ってるの見て、急に自分が情けなくなって……。お前のことあんなふうに笑わせることができる人も世の中にはいるのに、俺は自分の身可愛さでお前に取り返しのつかないことしたから……謝らなきゃって……。
でもいまさらどんな顔して謝ればいいのか分からなかったから……いきなりしおらしくするなんて無理だし、変だし……。」
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