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「だ、だからあんなふうにつっかかってきたの?」
「……俺馬鹿でガキだから、どうするのが一番いいのか分からなくて……。しかもお前の周り、あの目立つ先輩たちで常に囲まれて……お前は俺のことなんて眼中にないのが分かってたし……。それにイラつくところからして全然成長してないんだけど……それでも一回ゆっくり話したくて、それで…………なんて言えばいいのか分からないんだけど……。」
一言一言をかみしめるように言う木塚君に、僕は正直どんな反応をすればいいのか分からなかった。
謝ってもらったところで傷跡が消えるわけじゃない。
あのときの、怖くてたまらなかった気持ちが消えるわけじゃない。
僕はそんなに人間ができたほうじゃないから、謝られて「もう気にしてないよ」と心から言うことなんてできない。
でも……
「……僕、すごくこわかった。この傷をつけられたとき、今みたいに誰もいないところに押し込められて、何人もの人に囲まれて押さえつけられて……。い、いまだにこういう狭くて暗いところに足を踏み入れたくないって思う。それに傷跡だって消えないから健康診断のときとかすごく気を遣うし……わざわざ水泳の必修授業がない高校を選んだんだよ。」
正直な気持ちを伝えると、木塚君は消え入りそうな声で呟いた。
「……ごめん。」
「…………木塚君は楽しい高校生活を送ってきた?」
「え?」
「たくさん友達できた?行事とかいっぱい楽しめた?」
「あ、ああ……。」
それを聞いた僕は思わず表情が緩む。
「そっか……よかった。」
「は?」
目を丸くした木塚君は変な物でも見るような目で僕を見て、それから僕が言った言葉を確かめるかのように尋ねてきた。
「よかった、ってどういう意味?」
「僕はこの学校に進学して、色々な人と仲良くなれて楽しい学校生活が送れてる。中学の時は学校が大嫌いだったし、友達なんていなくて毎日つまらなかった。でも今は毎日すごく楽しい。だから……木塚君も楽しい学校生活を送ってこられたならよかったなって思って……。」
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