第23話 【季節の風に「さようなら」を・・・】

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「どうだろう……肺炎を疑ってステロイドで様子を見てるけど、肺の機能も低下してるし体も弱ってるから。直ぐには下がらないかも知れないな…」 先生は目を細めて言うと、再び新聞に視線を落とした。 私がキンモクセイを届けた日の五日後、雪菜さんは38℃台の発熱をした。検査の結果、間質性肺炎が疑わしいと言う事で治療を始めているが…… 長い療養生活で体力と抵抗力が衰えている事と、事故により肺の一部が損傷している事から、一度肺炎を引き起こすと治癒に至るまで時間がかかると言う。 「雪菜さん、大丈夫かな……」 洗い終えた食器を水切り籠の中で並べながら、ポツリと声を落とした。 「……」 束の間の沈黙が降り下りる。 「……先生?」 彼からの言葉を待っていた私は顔を上げ、新聞に視線を置いたままの彼を不安げに見る。 「適切な治療をしてくれてる。心配はない」 「う、うん。そうだよね…」 「それに、今までも発熱は何度も繰り返してる。治るのに時間は掛るが、珍しい事じゃ無い」 彼は言い終えると文字から目を離し、眉を八の字に下ろす私を見て優しく微笑んだ。 「それより麻弥。時間は大丈夫か?」 先生が掛け時計を指差して、キッチンに突っ立つ私の視線を時計の針へと誘導させる。 「うわっ!もうこんな時間!行かなくっちゃ!」 慌ててダイニングに戻るとエプロンを外し、それを食卓の椅子に掛ける。 「あ、咲菜ちゃんの歯磨きだけお願いします。さっき歯磨きの後にこっそりチョコレート食べてたから」 「はいはい」 「あと、寝室の窓が開いてるから戸締りもお願い!」 「はいはい」 パタパタとスリッパの音を立てる私を眺め、彼は涼しげな顔をして笑みを浮かべている。 「咲菜ちゃん、マーヤはお仕事に行ってくるよ。夕方迎えに行くからね。じゃあ、行って来ます」 バッグを肩に掛け、テレビの前に座る咲菜ちゃんに手を振った。 「マーヤ、いってらっしゃ~い!」 先ほど履いたはずの靴下を手に持って、咲菜ちゃんがそれをブンブンと振る。 「行ってらっしゃい。また後で」 先生は私を見送りながらそう言って、残りの珈琲を口に運んだ。
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