1888人が本棚に入れています
本棚に追加
メタセコイア広場から階段を上っていくと、池を囲むように秋色に色づき始めた紫陽花の葉が広がっている。
「ニャンコ!ニャンコ!」
咲菜ちゃんは池の前にあるベンチを指差して声を弾ませる。
「シーっ。そんなに大きな声を出したら、ニャンコがびっくりして逃げちゃうわよ」
杏奈さんが言ってベンチの下を覗き込む。それにつられて、咲菜ちゃんと私も地面にお尻を落として覗き込んだ。
目に留まったのは、大きな目をギョロッとさせ、ベンチの下で逃げのポーズをとったまま動かない一匹の猫。
「わぁ、可愛い三毛猫。首輪してる。飼い猫ですね」
「本当だ。毛並みも良いし、お散歩中の飼い猫ね。麻弥ちゃん知ってる?三毛猫の本当の名前ってジャパニーズボブテイルって言うのよ。アメリカでも人気があるの」
「そうなんですか~。…でも、やっぱり三毛猫のが馴染んでて可愛いな。ミケちゃ~ん、怖くないよ~」
三人横一列に並んでベンチの下を覗き込む。右端にいる私は手を差しのべて「おいでおいで」と指を揺らす。
「警戒して逃げちゃうかな」
「逃げるならとっくに逃げてると思いますよ。……あっ、シッポをピンと立てて近寄って来た。甘えたい証拠ですよ」
ベンチの下から顔を覗かせた猫は「にゃ~ん」と甘えた声で一鳴きすると、ご機嫌な様子で伸ばした私の指にじゃれながら頬を擦りつけて来る。
「さなも、さなもやる!」
もう待ちきれないと言った様子の咲菜ちゃんが、猫が甘える私の手を掴んで揺らそうとする。
「急がなくても大丈夫。咲菜ちゃんも下から手のひらを出してごらん。上から頭を撫でようとするとビックリしちゃうから、下からね」
私の声を聞いた少女は好奇心一杯に目を輝かせ、私の横から言われた通りにゆっくりと手を差し出す。
すると猫は目の前に来た小さな手をペロリと舐めて、咲菜ちゃんの足に近寄りスリスリと体を擦り付け始めた。
最初のコメントを投稿しよう!