第23話 【季節の風に「さようなら」を・・・】

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―――― 「杏奈さん、お店までどれくらい時間が掛りますか?」 助手席に乗り込んだ私が声を急かせる。 「今の時間だと片道20分は掛るわね。往復で40分…雪菜ちゃんの心臓はもってくれるかしら」 杏奈さんはエンジン音を鳴らすと、派手なハンドル捌きで駐車場のカーブを曲がる。 「分かりません。ただ……」――あの心拍数の異常な乱れ。素人同然の私にも分かる。雪菜さんの心臓が、もう正常な機能を果たしていない事を意味しているのだと―― それに、50台を切った血圧……一刻の猶予も無い。 「間に合って欲しい…少しでも、心臓が鼓動を打っている間に咲菜ちゃんに会わせてあげたい」 夜の闇を切るように車は国道を走り抜ける。 「信じましょう。雪菜ちゃんの生命力を…娘に会いたいと願う、母親としての最期の力を」 街のネオンに照らされる杏奈さんは噛みしめるように言って、両手でハンドルを強く握り直した。 間に合って…… ……神様、お願いします。せめて咲菜ちゃんが到着するまでは、どうか雪菜さんを連れて行かないで下さい。 助手席に座る私は手を握り合わせ、何度も祈りながらガラスの向こうに続く街並みに目を置く。 「この交差点を曲がったら直ぐよ」 焦燥感に駆られ黙りこくる私の耳に届いたのは、杏奈さんの声。 ビルの谷間を縫うように走る車はセンター寄りの車線に割り込んで、右折しようとウインカーを点滅させた。 三車線道路に面する、とあるオフィスビルの前に辿り着いた車は、ハザードランプを点灯させて路肩に止まった。
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