第1章

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平日休みのいいところは、どこに行ってもあまり混んでいないことだ。通過するのに身分証明が必要な場所なのだが、どうせ車の免許証でこと足りる。強引に同乗させた友だちも免許証を持っていた。クーペの助手席に人を乗せて、やって来たのはいつ以来だろう。金網の向こうに見える飛行場では、各国の旅客機が離陸と着陸を絶えず繰り返している。寄り道するつもりはなかった。展望の丘に行ったのは偶然である。自分はこういう役回りを、運命づけられているのだろうか。一本やった煙草を吸う友だちは先程から、一言も話さない。昔から、運命とか占いとか風水やらを信じない性質だ。と言いつつも、高校では天文部に所属していた。年に数回、合宿を計画する。大抵、校舎の屋上で観測は行われた。明け方にも星は流れていると聞いていたからかもしれない。寝静まった合宿所の寝床を用足しで抜け出して、一人、屋上に足を向けた。扉を開けた途端、人の気配に躊躇する。顧問教師と誰かの二つの影が、極限まで痩せ細った月の下で、一つになっていたのだ。見なかった振りをすることもできた。でも、影が振り向いて誰なのか分かって、咄嗟に名を呼んでしまった。助けを求めているのか曖昧な友だちの表情と先刻の表情が思い出の中で重なった。気まずげな顧問は同様に置き去りにした。何時も相手は年上だ。隣で吸っている煙草の灰が落ちそうになっているのに気づいて、携帯灰皿を突き出すが、動かない。丘では笑っていたのに。友だちは黙って歯を食い縛り泣いていた。指から吸い差しの煙草を抜き取って灰皿に納めると、震える肩を抱き寄せる。昔から変わらない。慰めか励ましか、わからない動作だ。もう、必要ないと思っていた。
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