◇◇ 第6章 お互いの傷 - 2 ◇◇

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古びた書類の香りの中、カシカシと頭を掻いて、照れを隠そうとしていた彼。 突然の告白に戸惑いと恥ずかしさはあったけど、私は小さく頷いた。 「明日、仕事が終わったら食事に行こう」 「……はい」 「これ、約束な」 うれしそうな表情の彼が、そう言うと同時に、腕を引かれ、掬い上げられた顎。 そして、同時に重なった唇の感触。 女子高から短大までエスカレータで、異性への免疫が全く無かった私が、初めて感じた温もりと、胸の高鳴り…… 情報ばかりで頭でっかちだったものが、一気に現実へと変わった瞬間だった。 契約期間終了間近に貰った愛の告白と……キス。 ほのかに香るたばこの匂いが、私を大人な世界へと誘った。
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