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「先日の商談内容に沿った修正だね。転送しといて。精査しとくよ」
「……」
「そろそろ出れそうかな?」
「あ、はい」
「じゃあ、10分後にロビー前に」
時計を見れば、得意先同行に向かう時間になっていた。
私は、制服のまま、鞄と書類を持ち、1階へと降りると、社屋前のスロープで、車の到着を待った。
『美紅の声は、落ち着くな……』
ひとり車を待つわずかな時間なのに、さっきの田所さんの声が、甦ってくる。
若かったとはいえ、あんなに一方的に逃げ出しちゃった私に、再会後も、以前となんら変わらぬように接してくる田所さん。
そう……それはまさに、お互いが想い合っていたあの頃、そのままで。
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