告白

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「そうだったの……育てたのはウルリクの指示……いえ、でも私は二人が心からデイルを愛して育ててくれたと信じているわ。でなければ、帝国に逆らって逃げたりしないでしょう」  オレもそう思う。  当時の知り合いの証言からも、命令なんかじゃなく本当の親子としての繋がりがあったように感じられた。 「私もそう思うよ、レリィ。デイル君、いやデュラント四世陛下は素晴らしい方だった。きっと育てたお二人が心から彼を愛して育てたからに間違いない」 「きっとそうですわ、ネヴィ兄様。二人には感謝の言葉しかありませんもの。けど、兄様。これで私が両公爵を嫌う本当の理由がお分かりになっていただけたと思うの」 「本当の理由?」 「ええ、アルセム王国では双子は禁忌。けれど、エントランド連合王国では双子は吉兆として喜ばれる。私は最愛のデイルを失ったというのにルシェリカ(デュラント神帝の側妃で、カイル・ライル公爵の母親)は双子を産んでも皆から祝福され、子達も幸せに育てられた……」  オレも授業で習ったけど、エントランド連合王国では、建国神話の中で双子の皇子が協力し合って国を興したことに由来し、双子は家を栄えさせる吉兆として尊ばれているらしい。 「だから、逆恨みとわかっていても、あの二人が皇帝になるのだけは絶対に許せなかった。なのに、あの当時アイルは健康を理由に廃嫡の話が取り沙汰され、次期皇帝は両公爵のどちらかだと噂になっていました。もし、それを阻止できるなら、私は命でも何でも捧げるとイオラートに願ったものです」  レリオネラ太皇太后は狂おしい目で、カイル・ライル両公爵を睨んだ。 「そんな時です。エルスト(デュラント神帝)がアイルに身代わりを立てると言い出したのは……。最初、何を言っているの、この人はと思いました。けれど、帝国の安定を図るためにはこれしかないと力説され、何よりも双子の公爵に皇帝を継がせなくていい――その一点で私はその企てに賛成しました」  一呼吸置くと、太皇太后はオレへと優しい視線を向ける。 「ですから、貴女のお父様については最初まったく興味がありませんでした。むしろ、大事な息子の名を騙る下賤な者という認識しかありませんでした」  まあ、格式を重んじる血統主義のお祖母様なら当然だと思う。  だから、オレだって最初の面談の時、絶対嫌われると思ってたもの。 「けれど、初めて貴女のお父様に謁見を許した時、私は息が止まる想いでした…………何故なら、そこに失われたはずの息子、デイルがいたのですから」  その時のことを思い出したのか、レリオネラ太皇太后の目に見る見るうちに涙が溜まる。 「見た瞬間、わかりました。この子は間違いなく私の息子だと直感したのです。しかも名前も同じデイル。その上、身上を問えば父はアデル、母はメグと言うではありませんか。私の想いは確信に変わりました」 「そうか……アイル皇子が健康を取り戻した時、君が凄く喜んでいたのは息子が元気になったからではなく、もう一人の息子に再会できたからだったんだね」 「はい、兄様の仰る通りですわ」  嬉しそうに答える太皇太后に、ようやく合点がいったとネヴィア聖神官は目を細める。 「けれど、その幸せも長く続きませんでした。デイルとアリシアが揃って遭難するだなんて……私はなんて不幸なんだと世を儚みたくなりました。でも、私が挫けていては二人の公爵のどちらかが皇帝となってしまう。ですから、反対の意思表明をしてアリスリーゼに移り住んだのです」  レリオネラ太皇太后は落ち込んだ表情を一変させると、オレへと熱っぽい視線を向けた。 「だから、アリシアちゃん。私が貴女に会えた時、どんな気持ちだったか、今ならわかってもらえるわね」
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