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実のところ、宮殿から出る際のオレの格好は、頭からフードを被って長い黒髪を隠し、神殿巡礼者に扮していた。
というのも、巡礼者は男女とも同じ格好をしていて一見すると性別不詳に見えるし、顔もフードで隠すことができ、無用ないざこざに巻き込まれないだろうとケルヴィンが判断したからだ。
けれど、宿屋や衛兵の検問など顔を見せる機会は、それなりに多い。
自分で言うのもなんだが、今のオレはかなり目立つ容姿をしている。
さらに艶やかな長い黒髪は女性らしさを強調し、それだけで耳目を集めるのは想像に難くない。
なので、オレは道中の安全のために『髪を切る』という選択肢を旅へ出る前に提案したのだが、ケルヴィンは元よりユクやシンシアからも大反対を受けて、断念せざる得なかった。
そんなにも大袈裟に反対する理由が今一つよくわからなかったけど、泣きそうなユクと血相を変えたシンシアに逆らう勇気はオレにはない。
ただ、オレとしては安全性を高めるためには、かなり有効な手段だと内心では考えていた。
そこで、宮殿から出て一旦クレイの一族の隠れ家に立ち寄った際に、思い切って自分でばっさり切ってしまったのだ。
その時のクレイの嘆きっぷりには、かなりドン引きした。
今では、普通に接してくれるようになったけど、切った当初はオレの頭を見る度に悲しげなため息をつくんで、鬱陶しいったらなかった。
本当に面倒くさいったら、ありゃしない。
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