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よし、これで人質はひとまず大丈夫。
次はスレイドを……と考えた時、大広間に野獣の咆哮が響いた。
「ク、クレイ?」
拘束していた連中を投げ飛ばし、手下の集団に突っ込んで、手当たり次第にぶちのめしていたのはクレイだった。
オレの裸が晒されて、我慢の限界を超えたんだと思う。
訳のわからないことを叫びながら、悪鬼のごとく素手で武装した相手を次々に叩きのめす様は相当こわい。
夢に見そうな迫力だ。
大体、話し合いだ大事とか法律を守れって、口うるさく言っていたのはクレイじゃないか。
まあ、今は何を言っても無駄だろうけど。
とにかく、オレの方は今の格好を何とかしなくちゃ。
破れた箇所を何とかしよう上着の物入れに手を突っ込むと固い物に触れる。
ん? と思い、引っ張り出すとそれは、神殿でパティオからもらった『護りの紅玉』付きのフィビュラ(装身具の一種、留め具)だった。
ちょうど良かった、オレは上着の破れた部分を重ねあわ、そのフィビュラで留めた。
オレが肌の露出を隠した頃には、大広間の惨劇はほぼ終息していた。
残っているのはスレイドとそれを守るテノールのみだ。
「おい、クレイ。いい加減に正気に戻れ。敵はあらかた倒しただろう」
オレが声をかけると、息をフーフー吐きながらクレイはようやく立ち止まった。
「お疲れ、クレイ。その……怒ってくれて、ありがとう」
オレが照れながら礼を言うと、振り返ったクレイは険しい表情のまま、一点を見つめている。
不思議に思い、クレイの視線の先を追うと、そこには新たな人物が大広間に登場していた。
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