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「い、いや何を言ってるんですか、オレは通りすがりの傭兵です。こ、皇女なんかじゃありません」
慌てて否定したけど、男爵は力なく笑って続ける。
「わしは若い頃、貴女様のお祖父様の近習を勤めておったことがありましてな」
な、何ですと。
「この芳しき香りは忘れることはできません……確か『護りの紅玉』でしたか?」
パティオの説明が脳裏に蘇る。
『この宝玉は単体としても優れた神具なのです。
暗闇ではほんのりと輝き。
寒い時は、ほかほかと熱を持ち。
暑い時は、ひんやりと冷え。
いつも、柔らかな良い匂いを周囲に漂わせ。
害虫が近づくのを妨げ。
保持者の心を安らかにする。
そうした能力を有しています』
ひょっとして、知っている人にはバレバレだったりするんじゃないか?
「そのう……な、内密にお願いします」
オレが頭を下げると、男爵は恐縮する。
「頭をお上げください。本来なら、跪かねばならぬところを病身ゆえお許しいただいている身なれば。殿下のお立場は重々理解しているつもりです。ご心配は不要に願います」
「あ、ありがとうございます」
「して、わしの処遇についてでありますが……」
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