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「それについては、何も言うつもりはないです。身分を隠しての旅ですし、そもそも皇女に領主をどうこうする権限もありませんし……」
「しかし、帝都に報告することはできますが……」
「ああ、神官が神殿に報告するのは止められませんが、オレ自身に実害があったわけじゃないので、報告はするつもりはありません」
オレの身に危険が生じたなんて報告したら、ケルヴィンに旅を中止して帰還しろ言われかねないからな。
ましてや、オレの裸が晒されたなんて言ようものなら、激怒してすっ飛んでくる人物が何人かいるに違いない。
ここは穏便に済まそう。
「ご厚情、痛み入ります」
男爵はオレの温情に感謝しているようだが、こちらとしてもその方がありがたいので、問題はない。
オレと男爵の話が終わったころ、クレイがメイエを連れてオレのところに戻ってくる。
「メイエ、大丈夫だった。怪我はない?」
「はい、私は大丈夫です。リデルこそ怪我は?」
「オレは頑丈にできてるから大丈夫さ。それより怖い思いさせてごめんね」
「ううん、きっとリデルが助けてくれると思ったから」
「当たり前じゃないか」
オレが微笑むとメイエの顔が赤くなる。
「ハーレムでも作るつもりか?」
ずっと機嫌の悪いクレイがぼそりと言った。
文句を言おうとすると男爵が退出を申し出たので、言うタイミングを逃す。
後で、説教してやる。
男爵を介添えして出て行くソフィアに声をかけようとしたが、目線で止められ、そのまま見送った。
「オレ達も宿屋に戻ろうか」
政庁舎でのいざこざはこうして終わりを告げた。
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