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ジュバラクから出てしばらくは、すこぶる順調な旅であったのだけど、次の目的地である『シトリカ』に近づくにつれ状況は一変した。
この地方特有の天候で、季節の変わり目によく見られる……長雨である。
雨が小降りになる合間を縫って馬を走らせていたが、旅程は遅々として進まない。
けれど、人間もそうだが、馬の疲弊を考えると無理強いは禁物だ。
替わりの馬も用意していなかったし、何よりも大好きなリーリムを手放す気など毛頭なかったからだ。
自然と、移動より待機する時間の方が多くとられ、日ばかりがいたずらに過ぎていく毎日となっていた。
ところで話は戻るけど、馬という動物は案外と雨に強い生き物だったりする。
雨に濡れると、一番外側を覆う長くて硬い毛が束になって雨をまとめ、地面へと落とす。さらに、体表の皮脂が水分をはじき、地肌を覆う柔らかい毛が空気の層を作って体温を維持するのだという。
なので、馬は雨の中でも体温を維持して、ある程度は走り続けることができるのだそうだ。
ただ、人間もそうだけど、馬にだって好き嫌いはある。
リーリムは意外にも雨が嫌いではないらしい。というより、じっとしているのが苦手で雨の中でもいいから、ずっと走っていたい性格のようだ。
逆にクレイの馬は雨が好きではなく、雨の中へ走り出そうとすると明らかに尻込みするし、走行中に少しでも顔にかかると首を振って雨滴を飛ばし、濡れた状態になるのを嫌がった。
そんな両極端な二頭のご機嫌を窺いながら、オレ達は現在小雨の降る中、旅路を急いでいた。
おや、どうやら少し雨脚が強くなってきたか。
オレは併走するクレイに声をかける。
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