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「いやいや、君もずいぶんと見目麗しいと思ったが、君の連れも実に良い男ぶりじゃないか。これは眼福、眼福」
サラさんは、見た目に反して男っぽい性格のようだ。
でも、嫌いじゃない。むしろ、好ましく感じた。
「クレイ、先客がいたんだ。……えと、さっき言いかけていたけど、オレはリデル。こっちは相棒のクレイだ」
オレは途中になっていた自己紹介を再開する。
「相棒?」
「ああ、オレ達は流れの傭兵でね。カンディアに向かっているところなんだ」
オレは最初に決めた設定どおりに身の上を説明する。
「なるほど、世の中が治まってきて傭兵さんも不景気だからねぇ」
サラさんはしたり顔で相槌を打つ。
「そういうサラさんは?」
「あたしは旅から旅の『文芸家』さ。ワークは今のところは、あたしの護衛ってとこかな」
『文芸家』……その名の通り、文を書いて芸と為し報酬を得る者。この時代では割と新しい職業だ。
前にも述べたが、時代は写本から木版、そして活版印刷へと書物の歴史は推移していた。
しかし、庶民が本を所有するには、まだまだ高価すぎた。
そこで登場したのが、貸本業である。
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