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形態としては本の所有者が貸し手になり、募った借り手に本を貸す形が一般的だ。
元々は神殿が説話や教義を書物化し、信者に貸し与えたのが嚆矢(こうし)だと言われている。
神官が文字を教える奉仕をよく行うのは、識字率を上げることで、その教義を読んで理解してもらうことにあるというのは、よく知られた事実だ。
そして、文字が読めるようになれば、宗教色の強い読み物に飽き足らず、娯楽性の高い読み物を読みたくなるのは、ごく自然なことと言える。
そうした庶民のニーズに答えたのが貸本業と文芸家という職種だ。
当初、文芸家の多くは、それまで娯楽の中心であった演劇の舞台監督や脚本家であった者が仕事にあぶれ、転職するケースがほとんどだった。
けれど、需要が高まり売れっ子の文芸家が出始めると、最初から文芸家を目指す若者も少なからずいると聞いた。
さしずめ、サラさんもそうした口なのかもしれない。
でも……とオレは違和感を覚える。
そういう状況は、あくまで大都市を中心とした文化圏での話だ。
地方では、顧客になる貸本を購読できる識字率の高い富裕層が少ないため、商売にならないのだ。
なので、文芸家の多くは大都市に居を構える。もちろん、それだけでは食べていけない者も多いので他の仕事と兼業しているせいもあった。
だから、流れの文芸家だなんて、オレは初めて耳にした気がする。
オレの怪訝な表情に気づいたのかサラは、笑みを浮かべて補足してくれた。
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