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「これも仕事の一環でね。故郷に里帰りしなきゃならない用事ができて困っていたら、版元が紀行文を書いてくれるなら旅費の補助をしてくれると言うんでお言葉に甘えたって訳さ」
なるほど、それならわかるけど、そんな厚遇を受けるということは、それなりに売れっ子なのだろう。
あいにく、その業界の知識に疎いので聞いたこのない名だが、ノルティあたりならわかるかもしれない。
「話してるところ悪いが、そろそろ服を着替えたいんだが……」
困った口調のクレイにオレは自分が濡れたままだったことに気づく。
「や、これはすまない。あたしはあちらを向いているので、どうか着替えを済ませてくれたまえ」
クレイの非難の目にサラは、ほんの少し名残惜しそうにしながら向こうを向く。
む、困った。ワークが気にしていないのか、こちらを何気に眺めている。
きっと男同士なので、問題ないと考えているのだろう。
けど、それではオレが着替えられない。
恥ずかしいのはもちろんのこと、オレが女であることを見知らぬ相手に知られるわけにはいかなかったからだ。
オレが躊躇していると、すかさずクレイが助け舟を出してくれた。
「ワークさんと言ったか。すまないが、こいつは恥ずかしがり屋でね。他人に見られていると服が脱げないんだ。それに……」
クレイはにやりと笑って続ける。
「こいつの裸を見られるのは、俺だけの特権なんだ」
な、何を言ってんだ、お前は!
そんなこと言ったら変な誤解を……。
「なになに、お兄さん達はそういう関係なのかい?」
ほら、サラが興味を示したじゃないか。
「まあ、想像にお任せするよ。そういうわけで、あんた。悪いけど、向こうを向いていてくれないか」
意外と純情なのか、顔を赤くしたワークは慌てて背を向けた。
クレイ、後で覚えとけよ。
内心、悪態をつきながら、オレは急いで着替えを済ませる。
クレイはと言うと、口ではああ言いながらも、しっかりオレに背を向け、オレを見ないように着替えていた。
真面目なやつだ。
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