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「まさか、こんなところで出会うとは思いもしませんでした。なんという偶然、まさに神のお導きでしょうか……ああ、それより中に入ってもよろしいですか? クレイも一緒なんでしょう」
すぐに入れてあげたいところだけど、このまま中へすんなり入れるわけにはいかなかった。
何故なら、アリシア皇女の劇的な帝都帰還に白銀の騎士が一役買っていたことは、街の噂や吟遊詩人の詩歌(あるいはケルヴィンの情報操作)によって周知の事実となっていたからだ。
もし、オレが女だとばれた場合、白銀の騎士が膝を折る美少女が誰なのか、大抵の人なら見当がついてしまうだろう。
だから、アリスリーゼ行きについてはヒューに秘密で事を進めた。
ヒューが同行を申し出ることは火を見るより明らかだったからだ。
とにかく、このままでは、せっかくの苦労が水の泡になってしまう。
「ちょっと待って、ヒュー。扉を開ける前に実はお願いしたいことがあるんだ」
「何でしょう?」
「騎士として、自分の身分を偽るなんて許しがたいことだと思うけど。そこを曲げてお願いしたいんだ」
「……どういうことですか?」
ヒューが不思議そうに尋ねる。
「白銀の騎士のままじゃ、ここは開けられない。オレは今、身分を隠して旅をしている最中なんだ。白銀の騎士と親しいと……その、ちょっと具合が悪くてさ」
「なるほど、そうですか」
「どうしても一緒にいたいんなら……う~ん、そうだな。その格好や態度は変えられないだろうし……そうだ、白銀の騎士に扮した旅芸人っていうのはどうかな?」
我ながら苦しいというか、かなり無理っぽい設定だが、この際仕方がない。
これで、押し切ろう。
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