2925人が本棚に入れています
本棚に追加
「あんたがそう言うなら、そうなんだろうね……あたしはサラ・エリュート。あんたの名は何て言うんだい?」
サラは意味深な笑顔を浮かべるとヒューに尋ねた。
「キーソリック……いえ、キース・デュアルと申します。以後、お見知りおきを……」
キーソリック・デュアルオール……吟遊詩人が詠う妖精の血を引く伝説の剣士。
美しい容姿に高潔な人柄、類まれな剣技を有し混沌の時代を駆け抜けた英雄。
幼い子ども達、特に少女達が最初に憧れを抱く対象ともいう。
バレバレの偽名じゃないかと、オレは内心どきどきするが、サラは表情を崩さずに返答する。
「キースさんかい。こちらこそ、よろしく」
きっと、バレてる。
それなのに、素知らぬ顔で受け答えをしているサラの真意は、一泊だけ共にする行きずりの人間をとやかく詮索しないつもりなのだろう。
ヒュー、その上手くやった感のドヤ顔をオレに向けないで欲しい。
全然隠せてないし、ちょっとイラっとするから。
「それはそうと、その旅芸人のキースさんが何で、傭兵稼業のお二人さんと親しい関係なんだい」
サラはヒューから視線を外すとオレ達に向けて問いかける。
それに対し、クレイは訳あり顔で、とんでもないことを言い始める。
「いや、俺達も傭兵だけじゃ食えないから、前には役者の真似事もやっていたのさ。この顔だろう、女が放っておかなくてね」
あ、馬鹿。
余分なこと言うんじゃねぇ。
そこは、前に護衛したことがあるとか、同じ村の出身とか無難な言い訳があるだろう?
ほら、案の定サラの目がキラキラしてきたじゃないか。
最初のコメントを投稿しよう!