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「そうかい、それは良いことを聞いたな。実は、あたしも文芸家になる前は、そこそこ名の知れた脚本家だったんだ。こいつは奇遇だねぇ」
何やら嬉しそうなサラに言い知れぬ不安を感じる。
「偶然にもシトリカで、昔の仲間に会う約束があってね。……うん、こいつは何だか面白くなりそうな予感がするよ」
オレには嫌な予感しかしないけど。
張本人のクレイを睨みつけると、さすがに反省したように頭をかいている。
オレはサラの上機嫌な様子を眺めながら、今後の展開を考えると何だか急に頭が痛くなってきた。
◇◆◇◆◇
シトリカは『河の街』と呼ばれる通称の通り、ピレゼウ河の両岸に位置している。
元々はピレゼウ河に架かる、街の名の由来でもあるシトリカ大橋によって一つの街であったが、一度目の内戦の折に橋が落とされて以来、修復されることもなく二つの街に分かれ、今日に至っている。
東岸の街は東シトリカ、西岸の街は西シトリカと呼ばれており、両市の行き来は主に渡し舟によって行われているという。
帝国の内戦により大規模なインフラ整備が行えなくなったことと、ピレゼウ河がカンディア防衛の戦略拠点として重要であったことが、橋の修復が行われない要因となっているのだそうだ。
オレ達は小屋で一泊した翌朝、雨が小降りになった狭間を狙って出立した。
昨晩は気づかなかったけれど、サラ達も馬車を持っており、午前中には東シトリカに到着することができた。
ところが、そこで待っていたのは予想外の事態だったのだ。
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