祝賀会にて

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「これは市長様、お目にかかれて嬉しゅうございます。さらに私の拙い演技をご覧いただいた上にお褒めの言葉、身に余る光栄でございます」  オレは芝居がかった所作で、市長に対し丁寧に一礼して見せる。  ちなみに、今回は役者のリデル君として招かれているので、ドレス姿ではなく男性の正装で参加しているのだが、どこから見ても男装の麗人にしか見えない。  会場のご婦人方の熱い視線を一身に集めて、まことに居心地が悪かった。 「いやいや、類(たぐい)まれな美貌と自然な演技に、わたくし実に感嘆いたしましたぞ。まさに美の極致と言えましょう。なので、今日のお召し物がドレスでないのが多少心残りに思っている次第です」  ホントはドレス姿が見たかった……そして、そのドレスをこの手で脱がしたかった、そんな本音が透けて見えるような目付きだ。  女芸人風情なら、どうにでもできるという自信があるのだろう。  何となく、支配人の君だけは残って欲しいの裏の意味がわかった気がした。  すぐにシトリカから立つという選択が賢明だったことを改めて悟る。  オレはそんな内心の気持ちをおくびにも出さず、優雅に返答した。 「過分なお言葉、感謝いたします。なれど、私などまだまだです。脚本や仲間に恵まれたおかげでしょう」 「ご謙遜を。貴女のおかげで、今回に河止めが安寧に過ごせたことは紛れもない事実です。市民も足止めされた旅行客も、いつもなら不平と不満を抱えてあちこちで騒ぎを起こすところですが、『喝采の嵐』の公演を見ることが不満の解消となったようで、目立った騒ぎも起こりませんでした」  なるほど、為政者としては不平不満の捌け口となったのが、最大の功労というわけだ。 「ですので、ぜひとも貴女の要望を何かひとつ叶えて差し上げたいのですよ」  市長として、懐の深いところを見せるのと同時に、若い女の歓心を得たい魂胆なのだろう。 「要望ですか?」  オレがニヤリとしたので、横にいるクレイの顔がとたんに渋くなる。
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