カンディア武闘大会

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 集団戦の基本は敵味方の位置認識にあると言っても良い。  何故なら複数人を相手にする場合、目の前にいる相手にだけ捉われていると背後や別方向から攻撃されることが往々にしてあるからだ。  さらには、気をつけないと自分の攻撃が味方に当たってしまうことさえある。  そのように、戦場では十分周囲に気を配らないと思わぬ不覚を取ることになりかねない。  オレ達は互いに声を掛け合いながら、相手を迎え撃った。 「リデル、前へ出すぎるな。追いつけていないぞ」  クレイの言葉にオレは思わず斜め後ろに目を向ける。  そこには全速力で走る審判の姿があった。  そう、団体戦では出場者一人ひとりに審判が付いているのだ。  と言うのも、この大会では真剣ではなく刃を潰した模擬剣での戦闘が仕様となっていた。  そもそもカンディアの武闘大会は戦いの合間に行われる座興であって、本業である傭兵稼業に支障のない範囲で行われるものであったからだ。  したがって、勝敗を決めるのは客観的な被害判定であり、本人の考えと食い違うことも多い。  個人戦では戦いを止めてジャッジすることができるが、団体戦では他の戦いが継続している最中で、そういうわけにはいかなかった。  そのため、一人ひとりに審判が付いて勝敗の判定を行う形式となっているのだ。  ところが、オレの走る速度に審判が全く追いつけていない。  どうやら、クレイやヒューが前衛に進み、オレのような小兵は側面か背後を狙うと思っていたようで、完全に出遅れていた。  オレはちらりと審判を見ながらも、速度を緩めない。  正面と左右から三人に敵がオレに向かって殺到してくる。 「リデルさん!」 「舐めるなぁ!」  ネフィリカの叫び声と相手の怒号が交錯する中、オレは宙を舞った。 「!」  三人の頭上を越え、くるりと回転し、相手方の大将の前に降り立つ。  団体戦では、どんなに劣勢でも相手方の大将を倒せば、勝利となる。  相手の表情が歪むのを見て、にっこり微笑んで模擬剣を思い切り振るった。 「ぐおっ……」  力に耐えかねて模擬剣は根元からぽっきりと折れたが、敵の大将は盛大に吹き飛んだ。 「し、勝者。アルサノーク傭兵団……」  あれ、ちょっとやりすぎたかな?
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