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「そ、そうなんだ……」
大人の世界は奥が深いとオレが信じこんでいると、クレイが爆笑する。
「なんだよ、クレイ。急に馬鹿笑いして……」
「いや、悪い……お前、本当に必要なこと以外、頭に残らないんだな」
「悪かったな、鳥頭で」
「ま、責任の一端は俺にあるからな。それより、リデル。本当にアルサノーク傭兵団の逸話……勅許状にまつわる話、聞いたことないのか?」
勅許状……何だそれ。
「……知らないけど?」
「リ、リデルさんが知らないのも当然です。古い話ですから」
オレの返答にクレイが「そうだろうな」という表情をし、少し酔いから醒めたネフィリカが慌てたように言い訳する。
オレが疑問符を浮かべていると、クレイがアルサノーク傭兵団の来歴を講義してくれた。
かつて、皇帝リフテ三世の治世の時代、帝都で大規模なクーデターが発生した。宰相ザルクマンと皇帝の弟ミゲルフォンが結託し、リフテ三世を弑逆しようとしたのだ。
異変を察知した三世はいち早く皇宮外へと脱出を図るも、近衛軍の一部も加担していたため、進退に窮する。
ところが、南門の警備についていたアルサノーク傭兵団の初代団長レイドリック・アルサノークが皇帝の窮状を救い、皇宮外へと逃がす。
その上で、身命を賭して脱出先であるイスケルド城までの護衛を買って出る。
三世はいたく感激し、史上初めて皇帝自ら傭兵団を直接雇用した。
やがて、追っ手と幾度と無く激戦を繰り返しながら、辛くもイウケルド城へと逃げおおせることができた。
けれど、当初63人いた傭兵のうち生き残ったのはわずか14人で、レイドリックも最後の戦いで殿(しんがり)を務め戦死している。
その後、諸侯の軍勢を集め帝都を奪還し、クーデターを鎮圧した三世は論功行賞の一番にアルサノーク傭兵団の業績を挙げた。
三世は、生き残ったアルサノーク傭兵団の二代目であるセドリック・アルサノークを貴族に叙そうとするが、諸事情があり断念する。
一説にはアルサノークが外国人であったため、あるいは強い固辞があったためなど諸説あるが真相は不明のままである。
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