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力の抜けたオレをゆっくり座らせると、クレイは済まなそうにネフィリカに告げる。
「すまない、ネフィリカ。気を悪くしないで欲しい。俺とリデルは昔、そのドゴスって奴とちょっとした因縁があってね。特にリデルにとっては、その名は禁忌にも等しいんだ。そんなところにあの男が『立派な人物』と聞いて、頭に血が登ったみたいだ」
オレが俯いたまま、じっとしていると背中をとんとんと優しく叩いて落ち着かせてくれる。
「そもそも、この団に入った動機も、アルサノークがあの男と敵対しているからというのもあったんだ。だから、君達とあの男がどういう間柄かは知らないが、今回のリデルの件を大目に見てくれると有り難いな」
「こ、こちらこそ、すみません。そんな事情があるとは知らずに」
「いや、言わなかったこちらが悪い。ただ、今後は俺はともかくリデルに関しては配慮してもらえると嬉しい」
「わかりました、気をつけます」
「よろしく頼む。それより、先ほどの話しぶりから察すると、あの男とはずいぶん親しげなんだな」
「ええ……」
ネフィリカは答えようとして、オレの様子に躊躇する。
「こいつは、もう大丈夫だ。続けてくれ」
そう言いながら、俯いたままのオレの頭をげしげしと撫でる。
「そ、そうですか……ベンゼルさんは父が突然連れてきた方なんです……」
ネフィリカの話では、ドゴス・ベンゼルという男は、ネフィリカの父親エイナス・アルサノークが突然連れてきて、いきなり団の要職に就けたのだそうだ。
周囲のやっかみも雲散霧消するほど、彼の能力は高く、エイナス団長・ロスラム副団長に次ぐ地位をすぐに確保した。
兄や自分にも優しく、良き相談相手にもなってくれる、信頼に足る人物だったそうで、敵対した今でも陰ながら庇ってくれているのだという。
オレは自分の耳を疑った。
それはオレの知るドゴス・ベンゼルじゃない。
あいつは裏切り者で、オレの父親の仇だ。
同姓同名の別人じゃないのか。
とても、同一人物とは信じられなかった。
「リデルには到底、受け入れられない話だろうな」
オレは無言で頭をこくりとさせた。
「そうなると本人に真意を聞くしかないな」
クレイの言葉を不審に思い、顔を上げたオレの目に、酒場の入り口から入ってくる当の人物、ドゴス・ベンゼル副団長の姿が映った。
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