街での噂

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 部屋に入ったケルヴィンは「ほう……」と小さく声をもらし、オレの姿をしげしげと見つめた。 「ケルヴィン様、皇女殿下のお支度はすでにできておりますが?」  ケルヴィンの高貴な相手に対し礼を失する態度にシンシアが窘めるように声をかける。  「いや、これは失礼。いつもに増して殿下の見目麗しいお姿に目を奪われておりました。願わくば、平素もこのようなお姿でいらっしゃれば、臣下一同が職務に邁進する励みとなりましょうに」  意訳すると、『やれるんだったら、いつもやれ』だ。  確かにいつもは、動きやすい格好に薄化粧しかしていないからな。  ケルヴィンの奴が心中でオレのこと全く信用していないのは知ってるけど、オレの容姿に関してだけは利用価値があると思っているらしい。  オレ的には見当違いの評価だが、他人の考えまで否定するつもりはないので、ここは穏便に対処しよう。 「そう言うケルヴィン殿こそ、化粧したらどうだ? 細面の上に色白だから化粧栄えしそうだぞ。それに悪巧みばかりしてるせいか、お疲れのようだし、化粧でもして少しは明るく見せた方がいいんじゃないか?」  クレイとシンシアが顔を見合わせて、嘆息する。  何だよ、先に喧嘩を売ってきたのはケルヴィンの方だからな。
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