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オレが納得できない目で見つめるとシンシアは困ったように言い訳する。
「私なんかより、ソフィア姉さまの方がずっと優秀です。それに、一族の者ならこれぐらいは当たり前ですから」
「一族って、『流浪の民』のこと?」
「はい、そうです」
シンシアの説明によると、流浪の民の一族として生を受けると、両親のみならず一族全体でその子どもを育てるのだそうだ。
そのため初等教育はもちろん、中等教育や専門教育も本人の希望と資質に合わせて、みっちりと学ぶことができる。
だから、商人や学者、傭兵などで頭角を現すものも多いのだという。
実際、教育にかかる費用は馬鹿にならない。
個人が負担するには、大き過ぎる出費だ。
この世界は、誰もが教育を受けられるほど優しくはないのだ。
けれども、かけられた投資が確実に一族の繁栄に寄与しているのは明らかと言って良いだろう。
「リデル様の前で申し上げるのは不遜の極みですが、一族ではこう伝えられています『一人ひとりが王のごとくあれ』と……」
シンシアが言うには、決して一人ひとりが王になれと言っているわけではなく、王と同様に物事が考えられるようになれとの示唆を含んだ言葉なのだそうだ。
まだ、皇帝が王であった時代、流浪の民は王以外の権威を認めず、王と直接に会話したという伝承が残っている。
対等に話すためには、王に等しい知識が当然必要だったのだろう。
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