第18章・罠

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「ああ。だけど一つ条件があるんだ。“お願い”って言った方が適切かな……」 夫の声は穏やかで、何かを吹っ切ったように表情も温和だ。 その様子はまるで昔の、優しかった頃の夫を彷彿とさせる。 「お願い? 何かしら」 聞き返す私の声も自然と優しげになる。 「離婚は4月でもいいかな? それと、離婚の前に由布香と旅行に行きたいんだ。最後に二人で桜を見たい」 「えっ?」 唐突な申し出に、私は狼狽を隠せない。 離婚の時期を決めてくれたのは嬉しいが、旅行には抵抗がある。
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