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ほぐしていた脚から手を戻し、ベンチの背もたれに寄り掛かって視線を上げる。
遊園地やプールなどはすでに閉園しており、残るはこのショッピングモールと映画館、それから温泉施設だけだ。
「……帰ろうかな」
ぼそりとそう独り言を呟いて立ち上がると、目の前を通り過ぎた人から彼がつけていた香水の香りがふわりと漂った。
――っ、彼だ!
その後ろ姿は昨日テレビで見た凛とした佇まいそのもので、彼に間違いないと後を追った。
「あのっ!」
声を掛けると彼は振り向き、眉を寄せた。
その視線は刺すように冷たく、不快なものでも見るような目つきをしている。
「……何だ?」
「あ、あの、私昨日ぶつかって書類を落とした者ですが……覚えてますか?」
刺すような視線を避けながらも勇気を出して告げた私を、彼はハッと鼻で笑った。
「新手のナンパのつもりか?」
「えっ?」
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