第四話:シンの過去

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「女って花火見るの好きだよな」 「え?」 シンの口から“女”なんて出されると、妙に現実味がなくて驚いてしまう。 そりゃあシンだっていい年した男だし、付き合ってた女の子くらいいるだろうけど。 「彼女に……ここから花火見せてあげてたの?」 「見たいって言われれば」 「それって職権濫用、ってやつじゃないの?」 「副社長の特権だろ」 飄々と答えるシンに、なぜか苛立ちが込み上げた。 職権濫用どうこうよりもシンに彼女がいたこと自体にショックを受けている自分がいた。 ヤキモチとかそういうことじゃなくて、私にとってシンは“副社長”であり、“男”という認識をしていなかったからかもしれない。 クリーンなイメージが、彼女という存在を臭わせたことで崩れたからだろう。 「じゃあ私じゃなくて彼女と見れば良かったのに。今年最初の花火でしょ?喜ぶと思うけど」
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