第四話:シンの過去

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苛立ちを募らせたまま刺々しくそう言うと、シンは特に気にした様子も見せずにあっさり切った。 「初日だから確認したい、と言っただろう?これは仕事の一貫だ」 「仕事の一貫」 言葉を繰り返すと余計に腹立たしく感じた。 ほんの数分前まではあんなに感動していたのに、ちょっとした言葉のチョイスでこんなにも気分が変わってしまう。 彼女にせがまれれば見せてあげた特等席での花火を、私には仕事の一貫で見せている、それがとてつもなく悔しかった。 「マコトさんの体なのに彼女作ったりして……そんな勝手なことしていいの?」 たぶん、一番言ってはいけない言葉を言ってしまったんだと思う。 売り言葉に買い言葉。 シンは売ったつもりがなくても、“仕事の一貫”は私には売られた言葉だった。 だから、怒鳴られても殴られても仕方ないと覚悟を決めていたのに、シンの態度は私が思っていたものとは違っていた。
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