第四話:シンの過去

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彼女はシンの目の前までくると、切なげに眉を下げて再び「シン」と呼んだ。 それに対してシンも、眉を寄せてはいるけれど不快だからというわけではなさそうで、「瞳」と名前を呼び返した。 この雰囲気からしてきっと……いや、間違いなく元カノだろう。 「久しぶりね、元気だった?」 「……あぁ」 「…………」 「…………」 「ここに来たら会える気がして」 「会う必要があるのか?」 「……謝りたくて」 「…………」 重い空気が二人を包み、傍にいる私まで巻き込まれそうになり視線を二人から反らすと、ベンチに残された男性と目が合った。 彼は私と目が合うとニコリと力なく笑い、不安な様子でこちらを見ていた。 「副社長。私は彼のお相手をしてきますね」 「いや――」 「ありがとうございます。少しシンとお話したいので、彼をよろしくお願いします」 シンが離れようとした私を呼び止めたけれど、それを遮るように彼女が私を遠ざけた。
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