第四話:シンの過去

30/32
前へ
/195ページ
次へ
「もしかして内容を聞いたのか?」 いつもと違う私の視線にめざとく気が付いたシンが、少し歩幅を緩めて私の隣を歩き始めた。 お互いスーツじゃないことで、隣を歩かれるとプライベートな気分が漂いドキッとする。 「……聞かれたくなかったよね」 「別に。ただ、カッコ悪いとは思う」 「そんな!悪いのはシンじゃないんだからカッコ悪いだなんて思わない!」 少し声を荒げた私にシンは一瞬目を見開いたけれど、フッと笑って再び私の斜め前を歩き始めた。 「あいつとのことはあくまでも“過去”だ。百合が心配するほど傷付いてもないさ」 「……そう」 「まぁ、何年も前のことを今さらほじくりかえされたのは腹立たしかったが、それもさっきの百合の一言でチャラにしてやった」 前を歩いているから表情を読み取ることは出来ないけれど、声色だけ聞いていると確かに落ち込んでいるようには見えない。
/195ページ

最初のコメントを投稿しよう!

374人が本棚に入れています
本棚に追加