第四話:シンの過去

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「俺を楽にしたいのなら、百合がいればいいってことだな?」 「そっそれは……」 「何だ?違うのか?」 私の額にあるシンの人差し指は、私の答えを急かすようにツンツンと突付いてくる。 なんだかイチャついているカップルのようで恥ずかしさに耐えきれず、シンの手首を掴んで強制交代をさせた。 けれど、マコトさんと交代する一瞬、切なげに眉を下げたシンが吐いた言葉に心臓が破れるかと思った。 ――ずっと俺の傍に居ろ、百合。 「……あ、百合音さん」 固まったまま動かない私を、交代したマコトさんが心配そうに覗き込んでくるけれど、今の私には大丈夫だと返す余裕はなかった。 ただ、落ち着くどころか更に激しく鳴り続ける胸の鼓動に必死に耐え、シンの言葉の意味をひたすら考えていた。
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