第五話:マコトの想い

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「お疲れさまです。あ、お疲れさまは変か……こんばんは?」 僕の姿を見付けて歩み寄りながらそう挨拶をする百合音さんは可愛らしくて堪らない。 昼間は後ろで一つに束ねていた髪を、今は頭上で緩いお団子にしている。 その姿に、浴衣を用意すれば良かったと激しく後悔した。 「わぁ……今日のディナーも美味しそう」 テーブルに視線を移した彼女が感嘆の声を上げた。 彼女がここへ来てから何度か食事を一緒にしたけれど、いつも美味しそうに食べていて、ホテル食に慣れてしまった僕の舌も初めて食べた時のように美味しく感じられた。 「温かいうちに食べましょうか」 「はい」 笑顔で答えた彼女が腰を下ろしやすいように椅子を引く。 腰掛けたのを確認して、僕もその隣へ腰を下ろす。 花火が見やすいように磨いてもらった窓は、真っ黒な夜空を映し出していた。
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