第一話:彼の秘密

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「……すごい」 運ばれてくる食事は、このホテルで実際に出されているコース料理らしく、どれも普段なら簡単に口にすることが出来ないような華やかさと美味しさを持ち合わせていた。 テーブルマナーに緊張しながらも美味しい料理に舌鼓を打ち、マコトさんと冴子さんと話が弾む。 「――そうですか、それで仕事を退職されて……」 「はい。この年で無職なんて恥さらしもいいとこですけどね」 いつの間にか仕事の話題になり、自虐でも話の種になればいいかと笑いながら話していたけれど、マコトさんの表情が少し固くなったのを見て慌てて口をつぐんだ。 こんな話はやっぱり聞いてて楽しくなかったのだろうと反省し、違う話題を振ろうと顔を上げた時だった。 「百合音さん、もし良かったら僕の傍で働きませんか?」 突然の提案に驚いて目を見開くと、マコトさんはふわりと笑って先を続けた。
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