第二話:冷たい男

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私は緊張でゴクリと唾を飲み込み、ノックされるであろう扉をジッと見つめた。 ――コンコン 程なくして訪れる人格交代の瞬間に、私の緊張は最高潮まで達している。 「百合音さん、どうですかこの部屋。ゆっくり出来そうですか?」 「……っ、はい!あ、ありがとうございます」 「大丈夫ですか?何だか顔色が――」 緊張のあまり声が裏返ってしまった私を心配して近付いてきた宝来真に“今だ!”と勢いで触れた。 その瞬間、バチッと触れた手が弾かれ、近付いてきていた宝来真の動きもストップした。 ゴクリと再び唾を飲み込む。 すると、止まっていた宝来真がスッと表情を変え、鋭い目付きで私を睨んだ。 「……何が秘書だ、こんな所まで乗り込んで来るとはな……帰れ」 「――っ」 人格交代が本当に起こった事実と、あまりの言い方にただ茫然とするしかない私をフォローするように、冴子さんが声を上げる。
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