第二話:冷たい男

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うんうん、と納得したように冴子さんが頷いている。 そうなってくると非常にまずいのは私で……。 「この手を離せよ、ユ・リ・ネさん?」 「――っ」 わざとらしく名前をゆっくり口にし、さっき以上に口角を上げて不敵な笑みを浮かべる宝来真に、背中がゾクリとした。 慌てて私は掴み返した手を離すけれど、宝来真は離してくれない。 「あ、あの」 「いいだろう。お前を秘書として雇ってやる」 その代わり、と顔を近付けた宝来真が骨に響くような低い声で告げた。 「研究以外では俺の許可なく触れるな。それから仕事は甘くない。冴子の代わりを務める気ならしっかり勉強することだ」 「は、はい」 「それから……俺は“マコト”じゃない、“シン”だ。二度と俺のことを“マコト”と呼ぶな」 分かったな、と言った彼は掴んでいた私の手首を突き放し、離れて立っていた冴子さんに何か告げて部屋を出て行った。
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