第一話:彼の秘密

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もちろん私も若いうちはアプローチをされたこともあったけれど、今はもう全く相手にもされず、『高月さんが退職すれば新しく若い子が入社出来るのに』くらいに思われていた。 お金のためだと思って我慢して働いてきたけれど、仕事をしに来ているのにそんな男女の目で見られることが耐えられなくなり、私はとうとう退職したのだ。 「……はぁ」 止められないため息。 毎月の給料をあまり無駄遣いしてこなかったとはいえ、貯金を崩して生活していくのは不安しか生まない。 大していい大学も出ておらず、就職に役立つ資格もほとんど持っていない私が、こんな理由で考えもなしに仕事を辞めたのはやはり間違いだったのだ。 悔やんでももう遅いのだけれど、下げた首は上げられない。 それでも「いや、暗くなっても何も始まらない!」と顔を上げた瞬間だった。 軽い痛みと共に腕が後ろに振られ、ハローワークでもらった書類がバサバサと宙を舞ってしまう。
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